ルベーグ積分入門―使うための理論と演習

本書のサポートページにもありますが、内容構成は測度→積分→完備化とリーマン積分→測度構成→フビニ…となっています。おそらく伝統的には、測度論を完成してから積分に進むというのが望ましいのでしょうが、本書では完備ルベーグ測度を構成するより先に積分を定義し、収束定理を述べます。この早さは確かに実用の向きには適しているかもしれません。演習問題も★なしであれば、良く読んでいればわかる程よいもので、理解の助けになります。ただこの構成と強く教育的なスタイルのために、犠牲にしたものが無いわけでもないというのも、事実だと思います。まず、本書は★なし項目を飛ばして読むことは出来ません。演習問題も飛ばせません。この理由は本書の自己参照や定理論証・演習回答が、そのような読み方をしているときのみ自然となるような、各種省略、帰着、アナロジーを多用して書かれているからです。そしてこの自己参照の絡まりは、本書の特徴的な理論構成によって、より複雑になっています。もちろん数学書なのだし飛ばすべきでないというのは、尤もな意見です。実際著者も、飛ばさない読み方を推奨しています。ただそれでもこのレベルの他の本であれば、もう少しラフな使い方ができるような書かれ方をしている場合が多いと思います。例えば自分の肌にあった論証を他所から持ってきたり、先読みしてロジックの雰囲気をつかんだり、まとまった特定の章だけ参照したり。本書はそういう読み方が非常にやりにくい。まさにそういうところに馴染んできた人にとっては、この本はかなり使いにくく感じるでしょう。「使うため」に独自の最適化を行った結果、推奨される使い方を逸れると急激に「使いにくく」なる本になった。そんな気がします。とは言え、確かに短期間でルベーグを身につける本としては、良い本ではあります。そもそもちゃんとした日本語のルベーグの入門書の選択肢自体、あまり多くありません。素直に受け入れて読み進める各種ゆとりがあれば、きっと役に立つ本です。